「好きを仕事にしながら食べていける」環境づくりがしたい。漫画LABOが漫画・Webtoon業界で必死の挑戦を続ける理由とは

公開日:2023/04/26

変更日:2024/09/19

「プロフェッショナルの生涯価値の向上」を企業理念に掲げているクリーク・アンド・リバー社。実は人材紹介だけではなく、ゲーム、テレビ・動画、IT・Webなどのあらゆるクリエイティブ領域において、制作請負やコンテンツ収益の最大化、自社オリジナル作品制作など、プロフェッショナルの方々が持てる力を最大限に発揮できる環境を提供しています。

そんなクリーク・アンド・リバー社の中で漫画・Webtoon業界のビジネスを担う部署、「漫画LABO」。電子書籍の取次やオリジナルIP制作に取り組む中、韓国では5年前から配信を開始しており、さらに今年は台湾・中国でも配信を控えるなど日々飛躍し続けています。

今回は「漫画LABO」の立ち上げメンバーである谷口に、仕事にかける熱い想いをインタビューしてきました。漫画・Webtoon業界で挑戦し続ける彼女たちの想いとは……?

谷口の経歴
2003年 株式会社クリーク・アンド・リバー社入社 社長室 秘書
2006年 人材派遣・人材紹介事業部(広告・Web・モバイル・ゲーム) 営業
2010年 新規企画開発部 営業
2012年 電子書籍取次事業部 営業
2017年 漫画LABO立ち上げ 営業兼編集長

\業界専門用語で会話OK!/

環境が無いなら自分たちで作る

――漫画LABOについて教えてください。

私たち漫画LABOは、好きを仕事にしてほしい、漫画業界だけでは食べていけない人のために何かできないかという想いがあって立ち上がりました。作品が売れる売れないっていうところだけに“ガメつく”のではなく、クリエイターが自分の持っているスキルや得意を生かして、そこへ私たちが売れるための手法を肉付けすることで作品を一緒に作り、その結果、紙書籍でもWebでもなんでもいいから世の中に受け入れてもらい、ちゃんと読者がついてお金が入ってくるという仕組み作りの道筋を立ててあげられる存在になりたいなと思っています。

――立ち上げたきっかけは何だったんですか?

私はもともと電子書籍の取次事業部の営業として出版社や作家の電子マーケットの売上を拡大していくことを担当していました。その中で企業から電子レーベルを立ち上げたい、コミックを強化したい、作家を紹介してほしいというご相談を受けることが多くなる一方、締め切りに追われて体調を崩す作家や、漫画家デビューしても「継続して仕事を取ることが難しい」「一人で描き切ることが大変」などクリエイター側の負担の重さなどを知りました。また、作家が一人きりで漫画制作を進める中でメンタル面も崩したり、頑張って制作しても生活が苦しかったり……という現場をすごく多く目にしてきたんです。

そんな状況を目のあたりにしたとき、「クリーク・アンド・リバー社の企業理念を“出版業界”でも体現できるのでは?」「クリエイター(作家・編集)とクライアント(版元)の双方の意見をうまく調整しながら、面白い漫画・ライトノベルを生み出すお手伝いができるのでは?」と思ったんです。

環境が整っていないなら、クリエイターが働きやすい環境を自分たちで作ろう!と、取次営業をする傍ら5年前に漫画LABOを立ち上げました。

――現状を変えようと自ら動かれたんですね!実際はどうでしたか?

はい。実際にオリジナルの作品も作りながら、請負で漫画制作を受注したり、ビジネス書のコミカライズや他社作品の漫画制作などに挑戦し「作る」クリエイター側と「発注する」版元側を経験しました。ただその中で、両方の見解を分かっているが故にせっかくいいものを作ろうとしても、「作る側」の見えない負担がどうしても大きくなりすぎて、結果ギスギスしてうまくいかない……みたいな部分が出てきてしまったんです。

それに、立ち上げ時からLABOの事業は黒字化するのは少し先だと分かっていたので、取次事業部のほうでしっかり営業利益を確保しつつ、その利益を投資しながら作品を作ることを進めてバランスを取るために、めちゃくちゃ仕事を回していたんです。あの頃にはもう戻りたくないですね(笑)。

このことから、3年前からは請負の漫画制作はすべて止めて、自社のオリジナル漫画(IP)制作を強化していきました。オリジナル作品(IP)なので、売れたら売れただけ作家にも印税をお支払いできるし、弊社の利益もしっかり確保できる。さらに取次事業部の新しい武器として会社にも貢献できるな、と思って取り組んできました。

――取次業務からIP制作まで…しかもHIT作もすでに生まれていますよね!

大ヒット作品がでるまでの4年間は挑戦、挑戦の日々でしたよ(笑)立ち上げメンバーは私を含めて3名。一人はゲーム事業部にいた読み切り漫画の経験がある漫画家、もう一人は同人誌を作ったことがあるWEB経験者、私は全くの知識なし。漫画の作り方や用語なんて全く知らなかったので、色々勉強しながらメンバーをちょっとずつ増やして、みんなでがむしゃらに続けてきました。

もちろん作家やクライアントからも怒られることもありましたが、今ではこれらすべてが自分たちの知識と経験になっています。作る人たちの思いを届けることも面白いし、自分たちで面白いと狙って作った作品が好評だと嬉しいし、弊社で商業初デビューをした作家がその後、大手出版社で連載デビュー決まったという活躍を聞けば嬉しいし、いつかまた~と話していた方と再び一緒に作品作りができて楽しいし……。なんでしょうね、そういうハッピーが繋がっていくと、もうちょっとこの業界って私利私欲だけじゃない環境でうまく回っていけるんじゃないか、日本の漫画を廃れさせない環境を作れるんじゃないかなって思っているんですよね。

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命削って追いかけるんじゃない、余暇で描いたもので対価をいただく

 ――身近な課題を解決するために動いてたら、それが日本の漫画のためにと大きいところに繋がっていったんですね。

そうだといいですね!だって日本の漫画って本当に面白いじゃないですか。Webtoonなどで海外作品もたくさん入ってきて面白いものはたくさんあるけれど、やっぱり日本の漫画が一番!情緒もあるし、起承転結もあるし、それこそ友情、愛情みたいなものもしっかりと書かれていて、なによりも言葉の使い方が素敵な作品がたくさんある。それに普遍的に正義を正として描くから、 絶対的に登場人物がおかしいものはないんです。だから、日本の漫画の制作手法とか大事にしてきたもの、それこそ漫画を紙で残す文化をちゃんと残していきたいんですよね。

かといって大手出版社のように「世界中で大ヒット!」と言われるようなものすっごい売れる作品(書籍)を漫画LABOでたくさん作りたいっていうイメージは実はなくて……。

有名な作品って1人の作家さんの血の滲むような努力と、全身全霊でサポートした編集者がいるからこそできたものなんです。すべての命と情熱と時間を1本の作品に注ぎ込む……心からリスペクトしています。でも私たちは、あくまで電子書籍マーケットで、そこまで1つの作品にべったり寄り添うことはせずに、広く浅く長く、その下の層のクリエイターたちとたくさん関われればいいなと思っているんです。

――その下の層のクリエイター?

例えば、絵が上手で子供のために絵を描いて、SNSで発信しているようなお母さんや、事務をしながら二次創作作品を頑張っている人っているじゃないですか。そういう人たちは、自分が持っているスキルが素晴らしいことに気づいていない。働く時間もない。これくらいのスキルじゃお金を稼ぐには……と個人で発信するだけになってしまっている。でも私たちLABOの取り組み方が合えば、描く時間が11時間あるなら、じゃあこのお仕事手伝ってみませんか?という提案ができそうですよね。

それに作家さん全員が正社員になりたいわけでもないと思っていて。本当は好きなことをしながら無理せずきちんと自分が最低限食べていくだけの額を得られれば、 雇用形態はなんでもいいっていう方も多いはずなんです。だからこそ、その辺りや業務内容がフレキシブルに対応できて、「この業務担当したらこれくらいはしっかり払うよ」とか、「売れたらこれくらいの印税入るよ」っていうことを提供できるような会社になれば、多くのクリエイターに自分のライフスタイルに合わせて作品づくりに関わってもらえるのかなと思っているんです。

「売れる売れない」を命削って追いかけるんじゃなく、本業やライフスタイルを大切にしながら得意なスキルを活かして対価をいただく。1対1じゃなくてみんなでヒットを作る。っていう環境を与えることができたらいいな、みたいな感じですかね。

――母親なら母親、クリエイターならクリエイター。今まで2者択一だったものが、漫画LABOがあることでいいとこどりができるようになるわけですね。なぜ今までこのような仕組みが無かったんでしょうか?

この10年で、国内外問わず電子書籍発の作品だけで年間1億円以上売り上げを出した作品はものすごく沢山出てきています。電子書籍の市場が伸びてきたからこそ、この考え方と、この働き方と、この仕組みを作ることができてきたんだと思います。まさにチャンスは広がってきているんですよ。

この業界はまだまだ盛り上がっていくので、盛り上がっていく先のターゲットや、 作品への思い・将来の人生設計に合わせて、「売れたいならこういう作品作りましょう」とか、「その希望なら、こういうことできませんか」とか、そうやってうまくクリエイターのスキルを活かす働き方を調整できるようになりたいですね。

事業会社だからこそのジレンマ 

――クリエイターのために環境を作るところから取り組んでらっしゃるのが素晴らしいですよね。それこそクリーク・アンド・リバー社ならではというか。

でも実は……事業会社だからこそ利益あげてこそなんぼみたいなところがあり、そこと漫画LABOの想いをマージさせることがどうしてもできない瞬間もあって(笑)

私たちは大手の出版社のようになりたいわけではないんです。でも組織も大きくしたいし、作品も増やしていきたいとは思っていて。作品を増やすことで関わるクリエイターが増えるし、関わったことで「ハッピーになった」とか、「良かった」って思ってくれる人をもっと増やせるじゃないですか。

でも会社としては、組織を大きくする、作品を増やす=事業として大きくすること。つまり利益を上げることになるわけです。今年売れたから来年もっといけるよね?みたいな。それもわかるんですけど…って、そこの部分がジレンマです。

ヒット作を担当した編集が作家と一緒に独立してしまう傾向があるこの業界は、つい“さらに”と会社の売り上げだけを追ってしまってそこに貢献した人を忘れがちになってしまうところにも原因がある。また、一方で作家や編集側もこれまでの会社からの応援を忘れてしまいがちになる。これではいけないな、お互いを理解して感謝して、利益がでればきちんとシェアできる環境にしておかないとみんな離れていっちゃいますよね。

だから独立してもしなくても「LABOと一緒に作品作りたい」と思ってもらうためにどうしたらしいか……。でも会社の利益も確保しないと続けられない、だから常にジレンマ中なわけです(笑)

――売れる売れないに“ガメつかない”、ゆるく繋がれるのが漫画LABOの良さでもありますもんね!

そうなんです(もちろん売れるのが一番ですが)!クリーク・アンド・リバー社って漫画に限らず、テレビやゲーム業界でも制作を行っていますよね。毎日見る情報番組や人気のバラエティ番組、老若男女に愛されるあの有名なゲームにも携わっていたり。そんなテレビ・ゲーム業界みたいに「あ、あの漫画って実はクリークが作っていたんだ~」をまず増やしていって、クリークでそういう作品に関わっていた人が、日本中、世界中、有象無象掘り起こしたらいっぱいいた!みたいな環境を水面下で作ることができたらいいなと思っています。

表立って「こんなことしてます!」っていうことを アピールしなくていいんです。いろんな業界でひっくり返したらそこにクリークが繋がっていた、好きなことをしていたらクリークに繋がったみたいな、そういうポジションに入れたらいいなと思っています!

 ハッピーを増やすための、徹底的な市場調査

――これからも関わるクリエイターを増やしていく予定はありますか?

もちろん関わる人はどんどん増やしていきたいです!ただ「こういうテイストの絵しか描きたくないです」「このジャンルだけをやりたい」っていう方だと、 今私たちが準備している方向性や注力しているジャンルとアンマッチで、お仕事がご紹介できない可能性が高くて。早く全ジャンルとか全方向性で展開できるようにならなきゃいけないっていうのが今の漫画LABOの大きな課題ですね。

――土壌を広げていくって難しいのでしょうか?

作り始めるだけならできるんです。でもただ広げるだけではなく、「受ける=売れる」を意識して市場に合わせていかなきゃいけないのでとても難しいですね。やってみなければわからないこともたくさんあるのですが、やるからには全ハズレは避けたい。最低限、イケる角度が見えている状態で取り組みたいんです。そうしないと会社もクリエイターもハッピーな結果にならないですから。

実は漫画・ノベルとも紙書籍と電子書籍で売れているものや売れ方が少し異なります。なので、市場調査として徹底的に買って読んで比べて掘り下げて……を繰り返して、自分の中の「合格ライン」を常にアップデートしてます。また、電子書店のランキングやあらゆるレビューも読んで書店毎のユーザー傾向をリサーチしたり、他出版社が作られている作品の方向性を見たりなど、作品作りと並行して行っているのですが……まあ、大変です(笑)。土壌を広げるとなると、こうしてジャンルを徹底的に情報収集して、電子市場ニーズや傾向をキャッチアップしていくことをしなければならない。そのためにそれを行う時間を増やして、メンバーも育成していかないと、と思っています。

――まさに徹底的な市場調査ですね……!すごい!

LABOの事業を伸ばし、LABOに関わってもらって一緒にハッピーになるクリエイターをたくさん増やすには、絶対的に「市場に受ける(売れる)作品」にする必要がある。それを目指すには、そういう徹底的な市場調査とたくさんのパターンから共通項を見つけて具現化する方法しかなかったんですよ。 それに狙ったものが当たったときがものすごい楽しい!戦略を考えているときも楽しい!作品とクリエイターがはまったときも面白い!それで作品がヒットすれば会社も制作に関わってくれたクリエイターや担当編集にも印税でお返しできるので、みんなハッピーになれますよね!

こうやって土壌を広げていくことが関わるクリエイターさんを増やす、幸せな人を増やせることに間違いなく繋がると思うので、漫画LABOチーム全員でまだまだ頑張っていきたいです。

――最後になりますが、どんなクリエイターと一緒に働きたいですか?

やりたい!っていうふわっとした気持ちだけで来られてしまうと、それをどう活用してあげたら良いのかが分からなかったりするんです。これしかしたくないってこだわりがありすぎても、うちはまだご一緒できる環境が準備できていない。

何が描けるとかどれがうまいとかっていう経験よりも、好きなことや足りないことが言語化できて、できないことがあったら素直に勉強できて、自分の中で面白いと思うその感性を恥ずかしがらずに相手に伝えることができる人と一緒にお仕事がしたいなと思っています。

――ありがとうございました!

▼クリーク・アンド・リバー社の制作実績はこちら
クリーク・アンド・リバー社とは | HIGH-FIVE

この記事を書いた人

HIGH-FIVE編集部
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