アニメ制作×テクノロジーで旧い体制にアップデートを。サイバーエージェントグループの新設スタジオ・CA Soaが起こす変革とは

公開日:2025/05/23

変更日:2025/05/25

世界中を巻き込んだ盛り上がりを見せているIP(知的財産)ビジネス。特に日本アニメに関連する国内・海外の市場合算は、3年連続で過去最高を更新するなど成長の一途をたどっています。

そんな中、サイバーエージェントグループの新たなアニメ制作スタジオとして、株式会社CA Soaが2025年1月に新設されました。「グローバルで通用するハイクオリティな日本発アニメ作品の創出」を目指し、制作進行・制作デスク・制作プロデューサー・アニメーターをはじめ制作の中心を担うメンバーの募集を開始しています。

今回はそんな同社において、立ち上げに至った背景、DXによる業界アップデートの可能性やサイバーエージェントグループのシナジーを活かした展開などについて、同社代表取締役の小川正和さんに詳しいお話をお伺いしました。

■PROFILE
株式会社CA Soa 代表取締役社長 小川 正和
佐賀県神埼郡出身。東京大学法学部を卒業後、2002年4月に新卒でサンライズに入社。『機動戦士ガンダムAGE』や『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』といったガンダムシリーズでプロデューサーを務める。2019年3月1日、SUNRISE BEYONDを設立し代表取締役社長に就任(2024年4月1日付でバンダイナムコフィルムワークスに吸収合併され解散)。2025年1月10日、サイバーエージェントの子会社として設立されたアニメ制作スタジオ「CA Soa」の代表取締役社長に就任。

旧態依然としたアニメ制作の現場をアップデートしたい

―――本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、CA Soa立ち上げの背景についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

小川さん
私がアニメ業界に入って20年以上になりますが、なかなか他の業界のようにアップデートされない現状があると感じていました。さすがに紙はデジタルになり、PCが1人1台あるのも普通になっていますが、かといってデータが連携・蓄積されているかというと全くそうではありません。制作ノウハウ等の情報は属人化されたまま、その人が辞めてしまえばほぼ何も残らないようなこともあります。

私が新人だった頃に比べて、今やアニメはものすごく認知されるようになりました。「アニメを観ている=オタク扱い」といったこともなく、普通の娯楽として受け止められる世の中になったのに、なぜか制作の現場だけは旧態依然としている。この現状をなんとかアップデートしたいという思いがずっとありました。

そんな中、アニメ事業に本格参入したサイバーエージェント(以下、CA)から話を聞く機会があり、同社の持つテクノロジーを活用し制作現場にDXを導入することで、新しいアニメ制作の方法を模索できるんじゃないかと感じました。そういった経緯から、CA Soaの立ち上げをご一緒させてもらうことになりました。

―――そんな想いが背景におありだったのですね。御社とCAのアニメ&IP事業本部、また同じグループ内のアニメ制作会社であるCygamesPicturesとの関係性はどういったものになるのでしょうか?

小川さん
まずCygamesPicturesとは同じグループということもあるので、これから協力していくことも多くなると思います。

違いで言うと、CygamesPicturesには多くの作品数があり、何ラインもの制作が既に動いていますが、CA Soaは1ライン目の立ち上げ期です。DXなど新しい技術の導入を積極的におこなっていき、それらをいずれグループへ良い形でフィードバックできたら理想的だなと考えています。

またCAとの連携という意味では、CA Soaの経営会議にCAの役員の方々も参加しており、弊社メンバーだけでなくCAの各事業のプロフェッショナルが集まっています。アニメ&IP事業本部との連携はもちろん、配信プラットフォーム、2.5次元舞台の制作、実写映像化といったCAグループのそれぞれの強みやアセットを持ち寄りつつ、「いかに良いものを作れるか」「いかにヒットを生むか」ということを全員で考えています。

親会社・子会社というと、どうしても受発注的な関係値を想像してしまいますが、それだけでは良いものを作れません。よりフラットな目線で、お互いの強みを生かした関係値を高レベルで築いていけたらと思っています。

関心がないものに触れる時間も、作品に活きる大切なインプット

―――CAグループのシナジーを活かしたアニメ制作というのは、確かに新しい取り組みになりそうです。なお「グローバルで通用するハイクオリティな日本発アニメ作品の創出」が目的とのことですが、それに必要な要素とは何だとお考えですか?

小川さん

「どれだけ本気でアニメを作りたいか」という熱量でしょうか。ただ、それを労働時間的な根性論や精神論で語りたくないとも思っていて……私がアニメを作っている人に本気で考えて欲しいのは「他にはないものを作れる人材になってほしい」ということなんです。

これは私が業界に入った頃、大先輩にあたる監督から繰り返し言われていたことなんですが……「アニメばかり観ているんじゃない。美術館に行くでも小説を読むでも良いから、自分の知見を広げるための行動をとりなさい。作り手側に回るというのはそういうことだ」と。アニメが好きなのはもちろん有難いことなのですが、ずっとアニメばかり観ていると同じようなものの再生産にしかならない。好きなものは好きで良いので、興味関心があまりないようなものにまで触れる時間を作って、自分がこれから作りたいものに活かすためのインプットの時間にして欲しいんです。 期待することについて語るCASoa小川さん凄いものを生み出すクリエイターたちと仕事をしていると、やはりどこか“一般の感覚とは異なる”人たちが多いです。そういう方々と一緒に仕事をするためには、こちらもある程度渡り合えるだけのものを備えておく必要があります。特に制作は間を取り持つ仕事が多いので、ともすれば単純な取り次ぎ役になってしまいかねません。

(アニメーター等と違って)絵を描けるわけではない私たち制作の存在意義も含めているからこそ、インプットを大切にして、相乗効果でより良いものができるための役割を担えるようになって欲しい。若いうちは時間が無限にあるように思えますが、意外とあっという間に過ぎていきます。だからこそ、その「頑張る」をより効率的にやってもらうための手助けが、アニメ業界はまだまだできるんじゃないかって気がするんですよね。

ちなみに「グローバルで通用するハイクオリティな日本発アニメ」においては、セルルックのリミテッドアニメーション……いわゆる昔から続いている「日本のアニメ」が一番の強みだと思っています。昔ながらの(旧い体制で)、それこそ“命を削って”作られていた日本アニメの良さを、命を削らずに出せるようにできたらそれが一番強い

そういう観点からも、やはり残業時間などの労働環境が改善されて、かつインプットに使える時間も増えれば、良いものが生み出される下地も増えるのかなと思っています。

1人分の裁量は減らさず、ツールやシステムに投資して効率化する

―――なるほど……!そのための今回の挑戦、DX推進のお取組みに繋がっていくのですね。

小川さん
そうですね。あともう1つ、キャリア形成の観点もあります。昔のアニメ業界は離職率がものすごく高かったのですが、その理由の1つに「制作進行に課される仕事量が尋常じゃなかった」ということが挙げられると考えています。ほとんどが業務委託なので残業代はつかないし、土日も関係なく出ていましたし……今考えると絶対にアウトな環境で、かつ事務処理能力とマネジメント力がもともと高くないと生き残れないような世界でした。

そこから働き方改革が叫ばれるようになり、会社側は制作の人数を増やして、業務を細分化することで労働時間の上限に対応するようになりました。それにより制作は細分化された一部の経験しか積めなくなり、全工程を回せるまで約3年かかっていたのが、倍以上かかるようになってきています。一昔前では制作デスクやプロデューサーになっていてもおかしくない年数を経て、やっと制作進行を一通りこなせるようになる。一方で実際に手を動かしているクリエイターは、天才的な人であれば数年でかなりの成長を遂げます。彼らと対等に良いものを作っていくことを考えると、どうしても制作側の成長速度が間に合わないんです。

1人1人のキャリアとして人生で関われる作品数を考えたとき、下手に本人たちの仕事を削って裁量を減らすより、ツールをしっかり整備して効率的に仕事が回るよう最低限の下地を整えることができれば、1人あたりが管掌できる範囲も増えて育成期間を短くできるんじゃないかと思いました。社会的にも少子高齢化が進んでいますし、人材は少数精鋭で、むしろシステムの方にお金をしっかりかけてやっていった方が良いんじゃないかと。

―――確かに……!そのほうが、入ってこられた方のモチベーションも上がりそうです。

小川さん
そうだと嬉しいですね。最大の敵は、「アニメ業界はそんなものだから仕方ない」と思われてしまうことです。労働問題以外にも、例えば他業界では定期的に改善点を洗い出して次に活かしているはずなのに、アニメ業界ではなぜか完成すると、問題点も含めて無かったかのように全てリセットされることが多い。でも「こんなやり方でいいのかな」「これではまずいから、自分が次のポジションになったとき少しでも改善しなければ」と考えている人は、どの会社にも1人2人いると信じたい。まずはCA Soaでできることを一度全部やりきった上で、今課題とされていることがどれだけ残るのか見てみたいという気持ちがありますね。

得られた利益は、制作予算とクリエイターに還元できるように

CA Soaのオフィスデスク環境―――今まで主にDX周りのお話でしたが、御社はオフィス環境にもこだわられていると伺いました。

小川さん
そうですね。やはり机は広く使ってもらいたいですし、アニメーターの方々は特に集中しやすい環境を担保できるような形にしてみました。椅子もかなりこだわって選んでいます。

―――CAグループというと渋谷のイメージがありますが、御社は練馬区のオフィスなのですね。

小川さん
アニメ会社が多いエリアということもあり、西武新宿線、西武池袋線、中央線の3路線の間に住んでいるクリエイターさんが多いですからね。基本的に出社ベースのお仕事なので、住みやすく通いやすい立地というのは意識してオフィスを選びました。あとは単純に家賃ですね(笑)。お金は制作予算やクリエイターへの対価にしっかり充てられる環境にしたかったんです。オフィスの最寄り駅から規定内の距離であれば家賃補助も出ますし、そのあたり会社としてかなり配慮しているということはお伝えしたいですね。

CAのグランドビジョンでもありますが、私たちは「クリエイターに応援されるブランド」に育っていきたいと思っています。もちろんクリエイター以外の関連職種もありますが、「クリエイターファースト」は常に掲げています。選考フローの中でスタジオツアーも設けているので、実際にご覧いただきながら気になることがあれば気軽にご質問いただけたらと思います。

クリエイターにばかり言及してしまっていますが、クリエイターに還元されることで制作の仕事もやりやすくなると考えています。担当を複数抱えているクリエイターにも「CA Soaの優先度を上げたい」と思ってもらいやすい条件を提示できるので、結果として制作への還元にも繋がるのかなと。またバックオフィス面に関してはCAと引き続き連携していくので、そういうところも安心感に繋がったら良いなと思っています。

経営目線で見ると、正直この待遇で今までと同じやり方をしていたら、絶対に回らないんです。だからこそ、私たちが本当に1ライン目からの立ち上げであることが効いてくる。現時点ではむしろ(アニメ業界を変革したいという)ビジョンしかない中で(笑)、そのビジョンに向かって、会社として制度設計をしっかりと考え、実践している。そこがすごく大きなポイントだと思います。

「このままでいいのかな」という人と一緒に業界を変えていきたい

―――そんな御社で、小川さんはどのような方々と一緒に働きたいですか?

小川さん
現状のアニメ業界で満足していない人、働き方なども含めて「このままでいいのかな」と考えている人に来て欲しいですね。そういう人たちと一緒に現状を変えていく会社にしたいです。あとは、やっぱりCAグループのカルチャーである「素直でいい人」ですね。

―――最後に、これからの展望について教えてください。

小川さん
まずは原作がある作品で、アップデートされた制作体制をしっかりと確立したいです。オリジナルアニメを作るにはやはりある程度の経験値が必要なので、数年くらいかけて人を育てた上で、オリジナルにトライできる環境を作っていきたいと考えています。私自身オリジナル作品をたくさん生み出している会社の出身で、誰も期待していないようなチャレンジからオリジナルのヒット作が生まれるところを実際に見てきているので、私の経験やノウハウも継承していけたら尚良いですね。

制作していく作品のカラーは今のところ決めていませんが、私が今まで携わってきた作品やスタッフがメカアニメ系なので、得意分野の1つにはなりそうです。基本的には、やはり高いクオリティのものをしっかりと作れる現場を築きたいですね。

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HIGH-FIVE編集部
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