「おもしろい」を大切に、クリエイターに寄り添い続ける。講談社クリエイターズラボが考えるコンテンツ開発の現在と未来

公開日:2025/01/23

変更日:2025/01/22

あらゆるジャンルのクリエイターたちを、創業110余年に亘って培われた「編集力」でサポートする講談社クリエイターズラボ。2021年6月に立ち上げられ、「すべてはクリエイターのために」という指針のもと、同社の新規事業開発部として出版の枠にとらわれない挑戦を続けています。

限られた企業やメディアだけが発信できていたWeb1.0から、SNSを代表する双方向コミュニケーションのWeb2.0を経てWeb3.0への転換が始まり、誰もが個人で発信できることが当たり前の時代になりました。さらにデジタル技術やAIが普及することで、クリエイターを囲む環境には大きな変化が訪れています。

今回はクリエイターズラボ「創作の不思議」担当 織田さん(写真左)、投稿サイト事業班 チーフ 川野邊さん(写真右)、メタバースラボ チーム長の佐川さん(写真中央)に、クリエイターズラボが考える「これからのクリエイター活動・コンテンツ開発」について詳しいお話をお伺いすることができました。

「クリエイターをやるなら日本」と言われる未来を目指して

―――本日はよろしくお願いいたします!さっそくですが、まずクリエイターズラボの概要について教えてください。

織田さん
クリエイターズラボは、一言でいうと講談社のR&D部署です。漫画家さん・小説家さんと編集者のマッチングサイト「DAYS NEO」を運営する投稿サイト事業から始まり、2021年に現在のクリエイターズラボの形になって今年で丸3年になります(※取材は2024年12月中旬)。

それぞれの成り立ちをお話しすると、今まで漫画家さんや小説家さんがデビューするには「出版社に持ち込む」「編集部主催の賞に応募する」の二択であることが多く、作家さんに編集者を選ぶ自由はありませんでした。そういった課題に対して、作家さんの方からも編集者を選べるようにしようという目的で始まったのがDAYS NEOです。

次に、個人でもゲームを作れる時代になり、クリエイターという意味では漫画家さんと変わらないよねということで、個人ゲームクリエイターに編集者がつく形で「ゲームクリエイターズラボ」という事業を始めました。累計3000人ぐらいの色々なクリエイターさんとお会いして、今ではその中から『違う冬のぼくら』という全世界で70万本を売り上げるゲームを生み出すことが出来ました。

クリエイターズラボについて語る講談社織田さんクリエイターズラボ 織田さん

この成功を受けて、今まで編集者としてやってきたことは他のジャンルでも活かせそうだということで、映像クリエイターさんと組んだ「シネマクリエイターズラボ」、XRクリエイターさんと組んだ「メタバースラボ」などを立ち上げました。これらを総称してクリエイターズラボと呼んでいます。

最終的には「アイドルをやるなら韓国」「ファッションをやるならフランス」のように、「クリエイターをやるなら日本」と選んでもらえる状態を目指したいと考えています。

―――それぞれどのようなビジネスモデルなのでしょうか。

織田さん
これからマネタイズを検討するフェーズのものも多いですが、ゲームクリエイターズラボやメタバースラボで開発したコンテンツの販売、また何か新しいことをやってみたいと考えている企業に編集者としてのノウハウを提供して対価をいただくという取り組みも行っています。

川野邊さん
DAYS NEOには現在弊社以外にも13社の出版社が参画しており、各社から月額で利用料をいただいています。ただそれはあくまでシステム運用費を赤字にしないことが目的で、収益をあげるためではありません。DAYS NEOをローコストで運営することで、将来的に100億円稼げる作品が生まれればOKという考え方です。

佐川さん
IPのビジネスって変な話、人気になってしまえば広げ方やマネタイズポイントはたくさんあるんです。ただ人気になるまでがかなりの投資なんですよね。その間に事業として継続できそうなものをあらゆる手段でやっているという感じです。

クリエイターに伴走し、「おもしろい」から逃げないこと

―――公式サイトには「講談社が培ってきた編集力を活かし」とありますが、皆さんが考える編集力とは具体的にどんな力ですか?

織田さん
作品を良くするという意味では「アイデアを生む力」ですが、一番は「クリエイターさんが作品作りに集中できる環境を作る力」なのかなと思っています。

クリエイターさんは素晴らしい才能を持っている一方で、スケジュールを立てるのが苦手、人とのコミュニケーションが苦手、作品の宣伝は誰かにお願いしたい……といった色々な悩みもお持ちです。我々がサポートすることで、クリエイターさんが持てる力を一番よく発揮できるよう考えるのが編集力なのかなと思います。

川野邊さん
僕は「クリエイターの目標達成に向けて伴走・支援できる力」だと思います。例えば漫画で死ぬほどお金を稼ぎたいと思っている漫画家さんがいたとして、コアな漫画好きに愛されている媒体で漫画好きのための作品を一緒にやろうぜ!って言うのって、僕はちょっと違うと思うんですよ。死ぬほどお金を稼ぎたいのであれば、少年誌でファンタジーを描いてより多くの読者に届けたほうが可能性は高いですから。

もちろん作家さんのご意向とお持ちのスキルによってどうアテンドするかは違うと思いますが、 「あなたはどうなりたい?」「この創作活動を通して、何を目指そうとしている?」というところをしっかり聞いて、そこに向けて何ができるのかを考え続けることが編集力じゃないかなと思います。

佐川さん
編集力については社内でもよく話すのですが、本当に人によって違いますね。2人のような考えのメンバーもいれば、僕は雑誌出身でメディアを自分で作ってきた側なので、編集力に対する捉え方が少し違うかもしれません。

編集力について語る講談社佐川さんクリエイターズラボ 佐川さん

僕の中の編集力には2つあって、1つは「企画力」です。これはクリエイティブとか才能とかの話ではなく、「おもしろいから逃げない」ということです。皆大人になって器用になってくると「こういうのがウケるんでしょ」のようにロジックで語り出すんですが、本人が本当におもしろいと思っていない企画って何か流行らない。逆に本人の「おもしろい」で動いている企画は、そのエゴがちゃんと読者まで届くんです。そういう逃げない姿勢のことを僕は広義の企画力と呼んでいて、変にロジカルにならないことが大切だと思っています。

2つ目は「クリエイターさんの接点を増やす力」です。彼らの視野が狭まりそうなとき、いかにインプットとアウトプットを増やしてあげられるかが大切で、その手段がアイデアの提供だったり、会ってみると良さそうな人を紹介してあげることだったりします。基本クリエイターさんに作ってもらう仕事なので、その時々で僕たちはプロデューサー、コーディネーター、マネージャーといった立ち位置になって、インプットとアウトプットを増やす機会を作ってあげる。それは編集力と言えるんじゃないかなと思います。

―――出身部署によって編集力もさまざまなんですね……!そもそも皆さんはどのような経緯でクリエイターズラボに配属されたのですか? その時のお気持ちは?

佐川さん
僕は自分で異動希望を出していました。それまでニュース系の雑誌でファクトを伝える仕事をしていたんですが、もともとクリエイティブっぽい仕事がやりたかったんです。なので配属されたときは「やった!作りたいものが作れるかも!」という感じでしたね。念願叶っての異動だったので、今めちゃくちゃ楽しいです。

余談ですが、僕は学生の頃から映像が好きで、就活時も広告代理店やテレビ局を受けていたんです。その延長で映像系のクリエイターさんにプライベートで会いに行っていたのですが、異動が決まってうちの部長が「色々なクリエイターと仕事をするのが講談社だ」と言ってくれて、「これからは大手を振って映像クリエイターに会いに行って良いんだ!」って(笑)。色々なクリエイターさんと会う理由が増えたという意味でも、僕はすごく嬉しかったですね。

川野邊さん
僕の場合は思いがけない異動でしたね。もともと漫画アプリの運営をしていたので、いかにお金を稼ぐか考えながらエンジニアリングのサポートをする……みたいな仕事だったんです。そこから「なんか漫画が好きでシステムに詳しいやつがいるらしい」という話になり、声をかけていただいたみたいです。

そんなわけで晴天の霹靂の異動でしたが、配属されたときは「めちゃくちゃ漫画家さんに会いに行こう」と思いました。漫画アプリは読者を向いたサービス運営でしたが、DAYS NEOは漫画家と編集者がユーザーなので、まず「漫画家ってどんな人たちなんだろう?そもそも出版社と仕事したいと思っているのか?」というところからきちんと会って確かめないといけないなと。その結果、漫画家さんが考えていることは本当に多種多様で、画一的な向き合い方をしても成果は出ないんだろうということがわかりました。そこから得た体験が先ほどの編集力=伴走に繋がっていますし、今でも漫画家さんに会いに行くことは続けています。

織田さん
私はクリエイターズラボに来る前、児童書の営業担当をしていました。というのも、学生の頃に中学受験塾の国語講師をしていた経験から、児童書の編集者を目指していたんです。でもいざ営業として仕事をしてみると子供の数も減っていて、なかなか児童書が厳しい状況に置かれていることがわかりました。そこで児童書部門を良くする方法を知るために、社内で一番利益を出しているコミックの部署で勉強したいと異動希望を出したところ、クリエイターズラボに異動になりました(笑)。

川野邊が漫画とデジタルの知識があるということで呼ばれたという話でしたが、同様に部長の中で「今後に向けて子供向けコンテンツをしっかりやらなきゃダメだ」という考えがあり、児童書の経験がある若手として僕が呼ばれたようです。

―――それぞれの分野のスペシャリストが呼ばれたのですね!織田さんは希望と異なる異動でしたが、実際にお仕事してみていかがですか?

織田さん
児童書の営業だった頃、皆ある程度本を特別視しているものと思っていたんですが、一歩離れてみてそんなことはないということがわかりました。受け取る側にとっては、媒体は何であれそこに載っている情報や「おもしろい」のほうが大事なんですよね。

講談社は「おもしろくて、ためになる」が理念であり、「おもしろい」を大切にしてきた会社です。自分の仕事はその「おもしろい」を載せられる新しい手法を考えることなんだと日々感じています。

人はあくまで「おもしろい」のもとに集まってくる

―――差し支えない範囲で、直近の皆さんのお取り組みについて教えてください。

織田さん
私が直近で担当したのは「創作の不思議」講座です。デジタル人材育成の専門家であるライフイズテック株式会社さんとタッグを組み、10~15人ほどの中高生に講談社の会議室に集まってもらって、対面で2日間に亘って漫画の創り方に挑戦してもらいました。
創作の不思議プロジェクト
本プロジェクトは創作そのものが目的ではなく、将来ものづくりをしてみたい子供たちや、なんとなくクリエイターになりたいと思っている人たちを育てていくことが目的です。TVの取材も来てくださいましたし、参加者満足度も高かったのですが、継続性や拡散性などいくつか課題も見つけられたので、次回はオンライン開催も含めて新たな手法を検討しています。

川野邊さん
僕は今DAYS NEOの運営と併せて、作家をリクルートしたい編集部と一緒に漫画賞の企画も担当しています。例えばヤングマガジン編集部との取り組みでは、「最近同じ系統の作品が増えたから新しい感じのタイトルが欲しい」と相談をもらったので、まずはハードルを大きく下げて色々なジャンルの作品を見てみようと議論し、直近だと「1話目だけ」×「ネームだけ」のコンぺをDAYS NEO上で開催しました。
DAYS NEO1話目ネームで挑め!連載コンペ
他にも「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」という自治体と組んだ取り組みもあります。全国からデジタルクリエイターを募集し、鳥取県に移住して創作支援費を受け取りながら講談社の編集者と創作活動に取り組んでいただくプロジェクトです。

「クリエイターの出会いの最大化」が投稿サイト事業の目的で、ツールは問わないですしなんなら弊社との出会いじゃなくても構わないので、他社の編集部も巻き込んでリアルイベントを開催したりもします。先日開催した漫画持ち込みイベント「DAYS NEO REAL 2024」では、漫画家 約200人と編集者 約100人にご参加いただきました。

クリエイターを集める=投稿サイト事業っぽい…ってことで、クリエイターを募る系のプロジェクトは大体、お鉢が僕のもとにシュッと回ってきます(笑)。

佐川さん
メタバースラボで現在立ち上がっているのは「META TAXI (メタタクシー)」という企画です。簡単に説明すると、色々な有名人がアバター姿で乗ってくる不思議なタクシーを舞台にしたYouTubeのトークチャンネルです。
METATAXIバナー
特徴としては、TVでお顔出しをしているような方々に限らず、覆面で活動しているクリエイターやアーティストの方々も乗ってこられる点です。メタタクシー車内で流れるCMなども新進気鋭のクリエイターさんが作ってくれていて、あらゆるクリエイターたちが接点を持てるカオス空間を目指しています。

メタバースなのにトークチャンネル?と一見新規事業っぽくないように見えると思うのですが、これには背景があります。メタバースをやるとなったとき、当然「バーチャルワールドに色々なキャラクターを全部入れ込む」というようなものがわかりやすく思いつくのですが、学生の頃から理系学部でVR・ARの研究をしていた身として、それはあまりやりたくありませんでした。というのも、コンテンツとテクノロジーの単純な足し合わせは、そんなに簡単に機能しないと考えていたからです。

世の中はちゃんとコンセプト・文脈・コミュニティの盛り上がりなどを感じ取るし、人はあくまで「おもしろい企画」「おもしろいコンテンツ」といった熱量のもとに集まるというのが大前提です。空間やテクノロジーがあるというだけでは、ただの虚無にすぎない。特にクリエイターさんはその辺りすごく敏感なので、きちんと根っことなる企画を作らなければいけないというのが僕の個人的な思いでした。

そういう背景から、メタバースラボでもゲームや漫画を作るときと同じように「新しいテクノロジーを使っておもしろい企画をやる」という方針になり、大日本印刷株式会社さんと連携して今の形になりました。単なるバーチャルワールドではなく、皆がおもしろがって乗っかってきてこそメタバースだと思っているので、外部企業とは積極的に連携していきたいと考えています。メタタクシーは世界観のところからきちんとコンテンツで作っていきたいですし、今後はグッズ制作や音楽イベントの開催も予定しています。

―――どのプロジェクトもお話を聞いているだけでワクワクします……!外部企業との連携という点で、DAYS NEOは他社の編集部も巻き込むというお話がありましたが、競合関係にはならないのですか?

川野邊さん
「競合他社」って言われると違和感はありますね。もちろん競合ではあるんですが、戦うだけの間柄ではないというか、「一緒に同じ領域のコンテンツ制作に汗を流し血を吐く人たち」という意識があります。

業界の繋がりについて語る講談社川野邊さんクリエイターズラボ 川野邊さん

もちろんDAYS NEOで良いなと思った作家さんが他社の編集者とマッチングすると悔しいですが(笑)、例えば弊社の看板媒体である週刊少年マガジンの編集者であっても、クリエイターさんが「他の編集者とマッチングしたい」と思えば、私たちはその決断を応援します。良くも悪くも、我々が提供する出会いは会社や媒体関係なく、人と人の出会いだという考えで運営しています。

「鬼滅の刃」がめちゃくちゃヒットしたとき、漫画の寿命が15年伸びたと言われました。鬼滅は短期的には発行元である集英社を大きく潤しましたが、長期的には出版業界全体を潤したという考え方もできるんです。そう考えると、やはり同業のみなさんは「負けたくはないけどお互い一緒に頑張ろうぜ」みたいな感じですね。

クリエイターも編集者も、時代に合わせて変わっていくもの

―――お話をお伺いしていると、どれもいわゆる「出版社らしい」取り組みではないと思うのですが、これらを出版社がやる意義について皆さんの想いを教えてください。

織田さん
ここ数年、コロナ禍や漫画アプリの普及もあって漫画周りの業績はとても良いですが、これが永遠に続かない可能性もありますよね。例えばかつて大きな収益を上げていたファッション誌も、今ではすごく苦しい状況になっています。

ユーザーにとって「コンテンツを楽しむ」という文脈は同じなので、一見出版とは関係ない新しいジャンルであっても手を伸ばしていくべきだと思いますし、それらを作ってくださるクリエイターさんともしっかりお付き合いしていく必要があると思うので、そういう意味で出版社がやる意義はあるんじゃないかなと思います。

川野邊さん
選ばれ続ける会社であるために必要なことですよね。クリエイターを取り巻く環境も、コンテンツを楽しむ人々を取り巻く環境も、もちろん我々を取り巻く環境もおそらく変わっていく中で、我々が編集者としてクリエイターとお付き合いし続けてきたスキルや経験値を活用して、他の新しいジャンルでもしっかり存在感を発揮していくことはすごく大切だと思います。「この会社と仕事したらワクワクさせてくれるかも」「お金になるかも」と思ってもらえるように、自前でこういった新しい取り組みをやっていることには価値があるんじゃないかなと思いますね。

佐川さん
2人が素晴らしいことを言ってくれたので、僕はテクノロジー的な文脈でお話すると……メタバースって抜本的に新しいテクノロジーだとかプラットフォームだとかいうよりも、「新しい表現の場」という感じがしています。

2007年にYouTubeが日本でサービス開始したときも、動画クリエイターというものがこんなに当たり前になるとは誰も思ってなかったですよね。そして映像というフォーマットは同じでも、TVアニメやショート動画などのジャンルによって表現も文脈も才能もさまざまです。そんな感じでメタバースもARもNFTも、それに即した新しい表現の文化が生まれてくる「場」なんだと思うんですよ。

新しい表現は当然喜んで迎えるべきだし、それらが生まれている場に理解を示すことで僕たちを選んでもらえるようにするのは、むしろ「やらなきゃ終わる」ぐらいの気持ちです。クリエイターとコンテンツに近いところで働いているからこそ、クリエイターがどういう思いで苦労して創作しているかを知っているので、こういう方々を支えてスターにしたいという気持ちが会社全体に根っことしてあるんだと思いますね。

―――そんな皆さんは、クリエイターと出版社は今後どのような関係性になっていくと思われますか?

織田さん
やはり我々がクリエイターから選ばれる側になるということでしょうか。今までは正直なところ出版社の方が選んできた側面があったと思いますが、時代の流れによってこれまでの優位性はほぼなくなってきているので、そこに対してどう誠実に向き合っていくかが大切だと思います。

川野邊さん
僕は「変わり続けていくもの」だと思っています。例えば、技術の進歩でアニメを作るコストがすごく低くなって、アニメ化される作品数が膨大になる未来があるとしたら、我々は版権の処理や運用の能力が現在よりもっと強く求められるようになるかもしれないですよね。それに、編集者の中には「Webが普及してから、編集者によるSNSの運用・作品の宣伝が必要になって時間が取られる」みたいなことを言う人もいますが、今はWebがあるんだからやろうよって話じゃないですか(笑)。

そんなふうに世の中の状況も変わり続けていくので、その中でビジネスパートナーであるクリエイターさんに価値を提供し続けるためには、我々も変わり続けなきゃダメだよなと思っています。
これからの版元とクリエイターの関係について語る講談社クリエイターズラボの皆さん
佐川さん
昔はクリエイターさんに「講談社です」と名乗れば興味を持ってもらえることもありましたが、ある頃から「それで佐川さん個人は何ができるんですか?」と聞かれるようになりました。これは僕なりの解釈ですが、創作が民主化してフラットになった分、当然ながら僕たちの価値提供の難易度も前より上がっていて、企画や予算、寄り添いといった、何らかの具体的なバリューを提示できないといけなくなった。そういう時代の流れを感じています。

クリエイターとクリエイティブをやっていく上で、相手がテクノロジーに弱いならこちらがテクノロジーの部分をやるし、相手が弱気ならこちらが強気になってあげるとか、そういう感じで動いていくしかないんじゃないかなと思います。

―――なるほど……!ではそういった流れを見てきた側として、今後AIなどテクノロジーがどんどん進化していく未来でクリエイターが生き残るためには、何をすれば良いと思いますか?

織田さん
部長の受け売りなんですが……クリエイターに必要なスキルは「頭」「手」「目」の3つだという話があります。「頭」は考える力、「手」は出力する力、「目」は出力したものを客観的に見る力です。この3つを全て自分で持っているクリエイターさんは個人でやれば良いし、何か足りない力があるなら編集者がサポートすれば良い。「進撃の巨人」の諫山創先生が編集者のアドバイスで模写の練習をされていたエピソードは有名ですが、あれはまさに「手」の力のサポートですね。

そこで今のご質問について考えてみると、AIをはじめとするテクノロジーって3つのスキルのうち「手」の力なんです。ということは、クリエイターにとって「頭」と「目」の力が今後はより大切になってくるんじゃないでしょうか。もちろん「手」の数が増えることで成功することもあるかもしれませんが、率としては厳しくなるのかなと思いますね。

川野邊さん
僕は「その人にしかできないこと」をやってほしいです。今の織田の話で言う「頭」の力を突き詰めることが重要なんじゃないかなと。AIは集合知みたいなものだと思っているので、その人の人生や人間性が詰まった「その人の脳みそからしか生まれないもの」を見せてほしいですね。

佐川さん
僕はAIがクリエイションの脅威になるっていう感覚があまりわからないんです。表現の幅が広がるという意味では良いかもしれないし、機械学習的にデータを活用できる利点はあるかもしれないですが……コンテンツって本当に文脈と熱量とタイミングが大事なので、結局は個に依存すると思っています。「なんでこの人はこんな音楽を作ったんだろう」「どうしてこの時代にこのテーマで漫画を描いたんだろう」と想像しますよね。つまり、僕たちはその人が作ったコンテンツを通して、その人の個を見ているんです。

だからAIが発展したとしても、個に寄り添ったオリジナルを作り続けているうちはそれを越えられることはないので、大きな心配をする必要はないんじゃないかというのが僕の感覚です。

―――有難うございます!それでは最後に、クリエイターズラボの今後の展開について教えてください。

織田さん
今までは1つの畑で次のクリエイターを探すというサイクルを繰り返してきましたが、今後はその畑をどう増やしていくかというフェーズなのかなと思います。XR・ゲーム・映像と広がってきているので、次の天才がどこにいるのか種を撒きながら、選んでもらうための仕掛けも含めて試行回数を上げていきたいです。

川野邊さん
投稿サイト事業として出会いの最大化とそこで生まれるコンテンツを応援しつつ、クリエイターさんに選んでもらえる「イケてる講談社」になるために、しっかりPDCAを回しながら我々の名刺となる取り組みを作っていきたいです。

佐川さん
僕は新しいテクノロジーを使って次世代のクリエイターさんとの接点を増やしていきたいと考えています。なるべく新しい表現、新しいコミュニティが生まれるように頑張って、いつかクリエイターが「ここと仕事がしたい」と思うようなクリエイティブレーベルが作れたら嬉しいですね。

この記事を書いた人

HIGH-FIVE編集部
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