“デジタルドリブンカンパニー”アシックスの急成長を支える、アシックスジャパンのデータ活用&1to1マーケティング
公開日:2025/06/26
変更日:2025/06/30

2024年12月期にて3期連続の最高益を更新した日本発のグローバルスポーツブランド・アシックス。この急成長の一端を担っているのが、アシックスの日本国内事業を手掛けるアシックスジャパン株式会社です。
徹底したデータ活用と丁寧な1to1マーケティングにコミットし、目ざましい成果をあげ続けている同社。今回は、私たちクリーク·アンド·リバー社もそのマーケティング施策の一部をご支援させていただいていることをきっかけに、アシックスにおけるデータ活用のお取り組みについて特別にお話をお伺いすることができました。
■PROFILE:
アシックスジャパン株式会社
DTC統括部 デジタルコマース・OneASICS部OneASICS・カスタマーインサイトチーム
水口さん(写真左)橋本さん(写真中央左)大井さん(写真中央右)
株式会社アシックス
エンタープライズITソリューション部 デジタルコンシューマープラットフォームチーム
橋口さん(写真右)
目次
生涯にわたるお付き合いにつながる体験を作ることができた
―――従来の卸型モデルからDTC(Direct to Consumer)型モデルを強化されたことをきっかけに、今日まですさまじい成長を遂げられています。まずはそのDTCモデルの主軸となるOneASICSについて、改めて概要をお伺いできますでしょうか。
水口さん
OneASICSは、お客様が無料で利用できる会員プログラムです。日本の会員数は、初年度の約13倍まで推移しています。メインの利用層は40代ですが、近年は40歳以下の若年層も徐々に増えてきています。
私たちはここからさらにパーソナライゼーションを進めていきたいと考えていて、「お客様のココロやカラダの動いた瞬間にベストなオファーを」「お客様の“ほしい”に最短アクセス」「店舗・イベント・ECを繋ぐ」「お買い物以外のブランド体験も重要視する」という4つの方針のもとで動いています。
1つ目の「ココロやカラダの動いた瞬間にベストなオファー」については、2024年の東京マラソンでの取り組みが具体例として挙げられます。大会前日に開催される東京マラソンEXPOにブース出展をして直接ランナーの方と接点を持ったり、アシックスの公式LINEを通してスタート2時間前に「いよいよ大会当日!これまでの自分を信じて、晴れやかに、東京の街を駆け抜けよう。」終了後に「大会お疲れさまでした。今日はぜひ頑張った自分の体をゆっくり休めてくださいね。」といったメッセージを送ったりと、実際にカラダを動かしてココロの変化が生まれたタイミングで最適なオファーを送るようにしました。当日のレース前、レース後と細かくコミュニケーションしていくことで、通常の開封率と比較してもかなり良い結果となりました。
2つ目の「最短アクセス」に関しては、お気に入り登録された商品が再入荷やセールになった瞬間にご案内をお送りする仕様になっています。またお気に入り登録だけでなく、「カートに商品を入れた後」や「商品ページを閲覧した後」などご案内のポイントが細かく設定されています。
アシックスジャパン 水口さん
3つ目の「店舗・イベント・ECを繋ぐ」動きで言うと、ちょうど昨年末に公式アプリをローンチしました。今までは店舗で会員証を見せる際にブラウザから都度ログインしなければなりませんでしたが、今では公式アプリを開くだけで会員証にアクセスできるようになりました。もちろん、ログイン不要で商品をオンライン購入いただくこともできますし、スペシャルイベントへのアクセスも可能です。
4つ目の「ブランド体験」について具体例を挙げると、アクティビティ付の旅行やアシックスとつながりのあるスポーツチームの試合観戦ツアーなど、実際にお客様がカラダを動かす体験と機会を提供するプレゼントキャンペーンを行ったりしています。
―――それぞれの施策によって生まれた効果や得られた声はいかがでしたか?
水口さん
バレーボールの試合観戦チケット、宿泊、アシックスのバレーボールシューズの3つがセットになったプレゼントキャンペーンを行った際は、親子がターゲットだったこともあり「子供のモチベーションが上がってより一層練習に励むようになった」というお声をいただきました。
また別のキャンペーンでは、アシックスのランニング商品をご愛用いただいているかつ、ランニング管理アプリ「ASICS Runkeeper」上で走行距離が一定以上の方限定で、日本で参加倍率が比較的高いと言われている東京マラソンの出走権をプレゼントさせていただきました。「(アシックスの商品だけではなく)ブランドとお付き合いできた気がします」「ますますアシックスのランニングアイテムやアプリを使い続けていこうと思いました」というお声をいただき、一生涯の長いお付き合いにつながる体験を作れた事例かなと思います。
アシックスジャパン 橋本さん
橋本さん
長くご愛顧くださっている方、アシックス商品をたくさんご購入くださっている方、店舗に通ってくださっている方にまず報いていきたいという想いと、一方で新規の方々にもたくさん利用いただきたいという想いもあるので、OneASICSを通して、より幅広い層の方にアシックスを知って体験していただきたいと思っています。
ランニングデータに合わせ商品提案&レース登録までサポート
―――どのように100万人以上の会員を獲得されたのでしょうか?
水口さん
3000円以上の買い物で送料無料、お買い物の際に還元されるOneASICSポイント、30日間返品OK&返品送料無料といった基本ベネフィットに惹かれて、購入とともに会員になっていただくケースが多いですね。加えて、OneASICS会員様限定商品や会員限定キャンペーンなども効果があったと思います。
橋本さん
店舗でもデジタルでもポイントを使えるよう統合プログラムにしたのも要因かと思います。なお、会員限定商品に関しては需給をある程度加味した上で、供給量より需要の方が多い場合はまず既存のお客様にご購入いただけるよう調整しています。ただ会員数を増やせばOKではなく、お客様視点での改善を繰り返してきたことが結果として会員増につながったという状況ですね。
―――店舗と他チャネルの統合に関しては、どのようにデータ管理されているのでしょうか?
大井さん
CDP(Customer Data Platform)ツールを昨年6月から導入しました。そこでデータの統合と管理をしながら「どのようなお客様が」「何の商品を」「どこで買ったのか」、また「何を閲覧したのか」「どこから会員登録したのか」をグローバルで一元管理しています。
橋本さん
以前もデータレイク自体はありましたが、メンズ・レディース・キッズ以上の細かいセグメントでデータを出したい場合は、ECやCRMシステムを管理するデジタル拠点であるボストンの子会社エンジニアチームに都度お願いする必要があったんです。現在のCDPツールを導入することで、私たち自身で簡単に必要なデータを抽出・集計できる様になり、リアルタイムでの分析が可能になりました。
さらにASICS Runkeeperのデータが追加されたのが私たちにとって一番大きい違いですね。購買・閲覧データ以外の走行距離や頻度、使用した靴といったデータをもとに、より細かくパーソナライズできるようになりました。本社から届くレポートのレベルが毎月上がっていて、各販社でもかなりの勢いでデータ活用が進んでいるのを感じます。
―――積極的なデータ活用が進む御社にとって、リアル店舗はどういう位置づけなのでしょうか。
アシックスジャパン 大井さん
大井さん
まずはフィジカルでのタッチポイントとして「お客様にブランドを体験いただく場」です。店舗によっては3D足形計測ができたり、ロッカーやシャワー室を設けたランニングステーションを併設していたり、店舗イベントも行っているので、お客様との接点として店舗の存在は大きいと考えています。
もう1つは「デジタルへの入口」です。店舗でのお買い物をきっかけにOneASICS会員になっていただくことで、メール配信など継続的にコミュニケーションが取れるようになります。またそれをきっかけに店舗への再訪はもちろん、今度はECでお買い物いただける場合もあります。デジタルでつながり続けるための店舗活用という考えです。
―――リアルでお客様と接するからこそ得られるエンゲージメントがありますよね。
橋本さん
そうですね。今までは「お得」を訴求するコミュニケーションが多く、昨年それを本気で見直そう、ブランドに対するエモーショナルなつながりがもっと必要だというディスカッションがあったんです。エモーショナルなつながりを増やそうとなると、やはりデジタルだけではどうしても限界があります。お店の世界観、実際に手に取ってみる商品、試着、スタッフとのお話、その他店舗ならではのサービスやイベントなど、本当のアシックスのリアルを体験いただけるのは店舗です。お店とデジタルの両方があってこそ、顧客体験につながっていくと私たちは考えています。
―――どのようにアシックスらしさを顧客体験に落とし込んだのでしょうか。日本市場において改めて競合との差別化ポイントを教えてください。
大井さん
日本市場に限ったお話ではないのですが、まずは商品への信頼性や履き心地の良さといった技術力がアシックスの強みです。その上で、ブランドが発信するメッセージの力も大きいと思っています。アシックスの創業哲学(健全な身体に健全な精神があれかし)を表す「Sound Mind, Sound Body」をブランド・スローガンとして掲げており、ココロとカラダ両方の健康をサポートするのが私たちの最大のミッションです。
必ずしも勝つことにこだわるのではなく、スポーツを通してココロを高揚させ、真のカラダとココロの調和が取れた状態をサポートするブランドであるということが、お客様にメッセージとして共感いただけているのではないかと感じています。
橋口さん
個人的には、アシックスが掲げる「ランニングエコシステム」も大きいと思います。アシックスではASICS Runkeeper以外にレース登録プラットフォームも提供しており、ECサイトとOneASICS上で連携しています。レース登録、シューズやウエアの購入、トレーニングのサポートなど、ランニングの一連の流れをアシックスがワンストップでサポートする仕組みです。
ランニングのログをとるアプリは他にもありますが、レース登録のプラットフォームまで持っているのはアシックスのみなので、包括的に提供できるところは他にない強みだと思います。
データとビジネスがシームレスにつながる“デジタルドリブンカンパニー”
―――そういえばIT担当の橋口さんは、アシックスジャパンではなくアシックスの所属なのですね。
橋口さん
そうなんです。APAC地域のECやCRMに関連するシステムのプロダクトマネジメントをリードするチームなのですが、今年からは新システム・新機能の導入をサポートする部隊と、その導入したものを実際にビジネスチームが使いこなすための支援を行う部隊に分かれました。私は、その中でビジネスチームのシステムの活用を積極的にサポートしています。
橋本さん
橋口さんには、ちょうど今年の1月から私たちアシックスジャパンのチームと一緒に動いてもらっています。例えば、掲げているビジネス目標に対してメールジャーニー施策を実装・最適化する中で、ロイヤリティ強化を橋口さん、売上向上を大井さんと担当を分けながらも、常にお互いで会話は交わされているような状態です。日本マーケットの販売とマーケティングというビジネス側を担う私たちのチームに、IT側の橋口さんが入ってきてくれたので、今まで以上にできることが増えました。
アシックス 橋口さん
橋口さん
IT側にいるとビジネス側が何をやりたいのかがわかりづらいし、逆にビジネス側にやりたいことがあっても技術的に可能かどうかがわからない……お互いにギャップがあるなというのは確かに感じていたんです。そこを一緒に動けるようになったことで「このデータが使えるから、こうすれば実現できるかも」というのをできるだけ早く返せるようになりました。
橋本さん
昨年までは本当に困ったことが発生したときに助けてもらう感じでしたが、今はビジネスの設計時点から会話できています。IT側もビジネス側の要件を知った上で提案を出せるので、お互いにとってやりやすい状態なんじゃないかなと思います。
橋口さん
ビジネス側が頑張って考えたものが、結局システム的にできなかったとか振り出しに戻るとか、すごくもったいないじゃないですか。「できなくはないが時間がかかるよ」「それならこの部分はもっと後にしよう」といったコミュニケーションを、出し戻しの作業を伴うことなくリアルタイムでできるとやはりスムーズですよね。
―――IT担当がビジネス側に染み出していくことでシナジーが生まれているのですね。こうしたデータ領域において人材面での強化もされていくのでしょうか?
橋口さん
新卒も中途も、既にグローバルでデータ人材の確保・育成は進めていますね。どこかのマーケットに依存することがないようグローバルでの人財確保を行い、販社も含めたグループ全社で4段階のデジタル人財育成プログラムを行っています。
―――すごい……!会社として本気でデータ周りを強化されていきたい意図が伝わってきます。
クロスチャネルでパーソナライゼーションをさらに進めていきたい
―――データドリブン経営が推進される中、私たちクリーク·アンド·リバー社(以下C&R社)もMAツールの導入・運用支援の面で協業させていただいています。
水口さん
はい。C&R社様には、Salesforce Marketing Cloudを運用したメール配信、キャンペーン応募フォームの作成・運用、一部LINEの活用支援に関して分析提案と実装を担当いただいています。私たちは各種媒体を横断したカスタマージャーニー全体の設計と実行を担うチームですが、御社にはその中でもメール配信とパーソナライゼーションの部分をお願いしているという状況ですね。
昨年から協業をスタートして一番成果を感じたのは、CloudPagesの導入支援です。メール施策は今までかなりの工数をとられていたので、作業効率をアップすることができました。
―――そう仰っていただけて何よりです。売上に対する効果などはいかがでしたか?
水口さん
EC全体で2023年と(協業開始後の)2024年の売上を比較すると、2024年は大きく数字を伸ばすことができていました。現在(2025年1~3月)も同様に伸び続けているので、御社の施策が売上拡大に寄与いただいていると思っています。
今後はCDPを活用したパーソナライゼーションをもっと進めていきたいと考えています。既に御社のご担当者とはお話を進めていますが、「エンゲージメントが高い優良なお客様を増やす」「会員登録はあるがまだ購入されていないお客様の初回購入促進」「購入履歴が1回のお客様のリピート購入促進」の3軸でパーソナライゼーションを進めていく予定です。
あとは、御社にはやはりメール配信のスペシャリストとして、より開封・クリック・購入に繋げるための質の部分でサポートいただきたいと思っています。自動化やAIレコメンドツールの導入・実装も目指していきたいです。
―――嬉しいお言葉を有難うございます。それでは最後に、御社の今後の展望について差し支えない範囲で教えてください。
橋本さん
2025年1~3月での新規のお客様が昨対比で増えているのですが、それに大きく寄与しているのが公式アプリです。顧客接点の中でも特にパーソナライゼーションに重きをおいたメディアなので、顧客体験価値の向上という意味でも、1to1のコミュニケーションという意味でも、公式アプリをさらなる高みにもっていくことが私たちにとってのチャレンジになると考えています。
また改めてではありますが「ASICS Runkeeper」のデータがCDPに追加されたことで、パーソナライゼーションの大きなポイントになりました。お客様にアシックスブランドを便利にご利用いただきながら、私たちもお客様にとって欲しい情報をベストなタイミングでご提供できるよう、クロスチャネルで最適化をを進めていきたいですね。
この記事を書いた人


HIGH-FIVE編集部

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